鏡の中のゾンビ [普通が奇跡]
無事に退院して、
これでようやくゆっくりできる。
というので、しばらくは寝てばかりいた。
体力がないので料理をする元気がない。
ほとんど、お弁当とか出来合いのもの、
自分用には、病人食専門の冷凍弁当を購入して、
それを食べていた。
病室で病人食のカタログを見ていたら
担当医師から、そんなもん注文しなくていいよ。
塩分に注意さえすれば、
あとは何を食べてもいいから。
といわれていたが、
食事を作るのが面倒だったのだ。
まずくはなかったが量が極端に少ない。
しかし、
朝から、あれほど食べたかったパンを食べまくり、
珈琲を飲みまくり、
それまでめったに食べなかったフルーツゼリーなど
口当たりのいい高カロリーのものを食べて
44キロだった体重が、
たちまち61キロになってしまった。
鏡を見て、ぎょっとした。
そこに見慣れぬ婆さんがいる。
しかも、ゾンビそっくりの無表情。
数か月、いや一年以上かな、
鏡を見るたびに
「あんたは誰?」
とつぶやくようになった。