車窓からの夏空

老いが進んで心配な頑固婆さんを残して、
猛暑の東京に、重い心で帰ってきた。



写真は、東京に向かう特急列車から撮った夏空。
雷雨続きの後の、素晴らしい青空。




電車は眠って移動する乗り物と決めていて、
最近は、あやうく熟睡、しかけてしまうほど、
気持ちよく寝ているのだけど、
心配しても仕方がないことを心配するのが止められず、
東京まで半分来たところで目が覚め、
後は眠れなくなってしまった。



見なれた退屈な光景を見るともなく見ていると、
特急に乗り換えた駅では土砂降りだった雨がやみ、
東京に近付くにつれて、どんどん陽光の輝きがまし、
典型的な真夏の光景になった。



今回は、雷雨と猛暑続きで、田舎でもさっぱり写真を撮らなかったなあ、
と思ったとたん、そうだ、今写真を撮ればいいのだと気づき、
バッグから馴染みの、最近は時計や日付が何度直しても狂ってしまい、
バッテリーもすぐにドロップアウトしてしまうコンパクトデジカメを取り出して、
車窓を流れる光景をパチリ。







カメラを向けた途端、見慣れた光景が生き生きとして迫ってくる。


住宅が密集した駅と駅の間に取り残された空き地に草ぼうぼうが、
ファインダー内に切り取ってしまうと、
何だか日本じゃないみたいな光景になってしまう。
それが面白くて、あとはず～っと写真を撮り続け。







東京に３０分ほどの距離なのに、こんな田んぼの光景があって、
これも写真に撮ると、捨てがたい魅力を発揮するのはどういうことか、
と思いつつ、手前に家や道路や電信柱が写り込まないように、
シャッターシャンスをつかもうと身構え集中して、全身に力が入る。



これって、もしかするとスポーツの感覚に近いかも、
とまったくスポーツをやらない人間なのに、
そんなことを思いつつ・・・・・・・・・。







この鉄橋を越えると、ああ、帰って来てしまった
という思いが強くなる。
こちらの鉄橋の柱の間から立った１枚だけ、きれいに撮れた鉄橋。
そして川と空。
妙に現実離れした感じがして気に入った。




いつなにがあっても、
それこそ今息絶えても不思議ではない
超高齢者である頑固婆さん。




さすがにそれを自覚しつつ、
動作がいっそうスローモーションになったが、
買い物も洗濯もシャキシャキと自分ででき、
ゴミ出しも、戸締りもちゃんとやり、
眠たくなると、「もう、コーヒーは飲まないのね」
とわたしに断って、
電気ポットのコードなどすべてのコードを抜いてさっさと寝る。




しかし、物忘れはどんどんひどくなっている。
動作も危なっかしくて、見ていて不安になる。




なのに、相変わらず、
家政婦さんもデイサービスも、訪問サービスも、
子どもの家に同居するのも、
何もかも嫌と拒否する頑固ばあさんになにも言えない。
ただただ、不安だけが黙々と積み重なってくる。




「楽しかったあ、こんどはいつ来るの」
とわたしの訪問を生きがいにして頑張っている姿が、
ふびんでもあるが、それをふびんに思ったら、
頑固婆さんの自尊心が傷つくのだ。



自分は頑張って生きるのだという決意と根性が
頑固婆さんを支えている。



いったん、ひとに頼ったら総崩れになってしまう、
そういう危うい均衡を保って、頑固婆さんは生きている。




ひとは、ただ、生きるということ自体が闘いなのだ、
と頑固場さんの所に行くと、毎回、実感させられる。




そういえば、赤ん坊もそうだ。
赤ん坊の生きることへの本能はすごい。





今日お昼ごろに電話をすると、
頑固婆さんは電話に出てくるなり、
「大丈夫、生きてます」




とぼけた頑固婆さんなのであった。

タグ：車窓 頑固婆さん 夏空

コメント 3

特急列車とか新幹線とか、なんであんなに乗っていると気持ちがいいのかなあ・・と思います。
スーさんのブログを読んでいて、祖母のことが心配で心配でたまらなかった時代、母のことが心配で心配でたまらなかった時代、父のことが心配で心配でたまらなかった時代を思い出しました。
スーさんの文章を読んで、お母様の「矜持」を見たように思いました。どうぞお元気でいらっしゃいますように。
by Sho (2010-08-01 23:56) 

今日は。
気持ちが良く伝わる文章にナイス。
私の母は明治の人で「同じ」生きて亡くなりました。
田舎は地域共同体ですから、近所の人がよく助けてくれました。

by 夏炉冬扇 (2010-08-02 17:17) 

カッコイイ♡
本当の日本の母ってこんな感じかも。
私は到底弱虫で(>_<)無理ですけど。。。
by 甘党大王 (2010-08-04 15:32)