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にんじん 好き? 嫌い? [食物]

子供のときに大嫌いで、大人になって好きになったもの
の筆頭が野菜の人参である。
筆頭と書いたが、ほかに好きになったものが思い浮かばない。
よくよく考えたら、人間かな。
年を重ねると人間に対する包容力がつくというか、
寛容の精神が身についてくるのか、
あるいは、鈍感力がつくのか、
どんな不快な人間も、時間を置くと平気になってしまう。
ま、それはさておいて・・・・。

子供のときは、人参の匂いがいやだった。
妙に薬くさく、味もその延長で、
口に含むとなんだこれは!という感じで、
食べると意外と歯ごたえがあって、違和感がつのる。
噛んでいると気持ちが悪くなってくる、
あの感覚は今でも鮮明に覚えている。


かといってぐにゃぐにゃに煮られた人参は、
見た目にも気持ちが悪く、
煮物などに人参がまじっていると、
人参だけとりのぞいて食べていたものだ。


あの赤い色もいやだった。
いまは、トマト料理が増えて、赤い料理も多くなり、
赤い色に抵抗がなくなったが、
子供時代、赤い色のお料理が気持ち悪かった。
トマトケチャップも嫌いだったのだ。
チキンライスとお赤飯は大好物だったが。


それがいつごろから、
人参の味がわかるようになってきた。
子供の時は、どこが甘いの?
と人参の甘さが分からなかったが、
いまはつくづく甘いなあ、
馬ってほんとに甘いものが好きなんだなあ、
と納得しながら食べている。


人参で連想するのは、まず馬でしょ。
人参が大好きな馬は変人と思っていた。
馬は人間じゃないんだけど、
子供ってその辺があいまいだから。


子供時代の味覚がいまも鮮明に残っているのに、
生だろうと、火を通したものだろうと、
おいしく食べられるというのが不思議だ。


人参が食べられるようになって、
人参嫌いの人間に対して優越感を持つようになった。
これも変だが事実だ。
まあ、わたしの人間性はこの程度なんだろうが、
特に、人参嫌いな男に出くわすと内心、
(なぜか人参嫌いは男に多いのだ)
「勝ったな」とほくそ笑む。


「偏食って、親の責任もあるんでしょうが、
偏食する人間って、わがままでこらえ性のないひと、
多いですよねえ」
などと嫌味がいいたくてたまらなくなる。
これは、どういう現象なのだろう。


ところで、『にんじん』という不思議な小説があった。

にんじん (岩波文庫)








(ルナアル著 岸田国士訳 岩波文庫)
あれは非常に不愉快な本だった。
自分の子供でありながら、赤毛のにんじんに辛く当たる母親。
それに、うじうじと悩むにんじん。
わたしは子供ながらに、なぜか母親側について、
にんじんが嫌いになってしまった。
そういう自分がいやだった。


ああいう親子は存在する。
感情的に常に対立していて、子供に辛く当たる。
あれは、相性だと思う。
理性ではどうしようもないものがかかわっている。
そういう人間同士は離れるしかないのだが、
親子、とくに親の保護が必要な子供にとっては過酷だ。


学資を出してもらうために、大学入学まで、
そんな親にじっと耐えねばならないのだ。
親のほうは、ヒステリーを起こしても、
自分が生んだ子どもだから義務もあるし、
愛情もあるし、子供に辛く当たる分だけ発散しているから
問題はないのだ。


なのに、わたしは同じ子供であるにんじんに、
共感も同情も覚えなかった。
ああ、そういう自分が、たまらなく嫌だった。


大人になって読み返したら、
違った印象を持つかもしれないが、
なんだか、読み返す勇気もない。
ああいう本を書いた作者はすごい。
また、世界中でそれが読まれているのもすごい。


「にんじん」は作者の体験をもとに書かれたらしいが、
ちょっと変わった小説を書いたパトリシア・ハイスミスも、
実の母親と憎みあったひとだった。
世の中には、実の親とうまくいかなかったひと、
意外と多いのだ。
きっと、相当に悩んで大人になったのだろう。
大人になるまでそれに気づかなかったわたしが、
能天気なのも当然か。


「にんじん」は、いじめとか、不条理とか、
人間が存在する限りつきまとう人間の本質的なものが、
意外と生に描かれている小説かもしれない。
いきなり親を殺してしまう子供がふえたいま、
子供と一緒に『にんじん』を読んでみるのもいいかもしれない。


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vaio_7

あ、私もよみました。でも、にんじんにもお母さんにも感情移入しませんでした。
確かに親子でも相性ってありますよね。
ひまになったらよみたいです。
by vaio_7 (2008-09-05 20:55) 

noel

小学の高学年だったか中学だったか忘れましたが一応読みました。
すごく後味が悪くていやでしたね。
子供ながらにあの理不尽さにどうにも出来ない感情が湧きました。

ほんとのにんじんのお話ですが、昔もっと香り(においと言うのかな)が強くなかったですか?
この頃のお野菜は全般的に食べやすくなったと思います。

by noel (2008-09-06 10:24) 

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