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落ちた時計 [謎]

夏の花カンナ.jpg
夏の花カンナ


深夜というか、早朝の4時すぎたころのこと、
家の真ん中で、突然ドタンガチャーンという大音響がした。
何が起こったのだ? 


わたしは、窓際の机に向かってパソコンの画面を見ていた。


朝型にしなければならないというので、
12時ころに寝たのだが、夜型の習慣が抜けず、
転々反側して眠れず、もういいや、
1日くらい徹夜同様のことをしても、
若いから(?)平気だと3時ころに起きてしまったのだ。


パソコンに気を取られていて、
何があったのか確かめないでいると、
寝ていた連れ合いが、「何が起こったのだあ」
と声を発して、しかし、眠たくて起きられないのか、
まるで起きてくる気配がなかったので、
音のしたほうへ行って見ると、
何と、壁にかかっていた時計が落ちて、
ガラスが割れて飛び散っている。


それは、連れ合いの母親の部屋に掛けられていた時計で、
真新しくて、メルヘンチックなかわいらしい絵柄がついていたので、
捨てるのがもったいなくなり、
わたしがお母さんの形見にいただいてきたのだ。


娘の家にかけたら、子供たちが喜ぶだろうと思ったのだが、
娘は、「いらない」の一言で拒絶。
こんなの趣味じゃないと、渋る連れ合いを、
何という親不孝者だろうと責めて、
前にあった事務的で味気ない時計と交換したのだ。


案の定、わが家に来た子供たちは、
この時計がすっかり気に入って、
あげるから、持ってお帰りと言ったら、
わ~いと歓声をあげたのに、
母親の「いらない」で、おしまい。
わたしと子供たちは、がっかりしたのだった。


前の時計を掛けていた小さなネジに、
そのまま大きな時計を掛けていた。
それが重さで、ネジがだんだん下を向き、
とうとう堪えきれなくなって、落っこちたのだ。
時計の針は止っている。


翌日、わたしと連れ合いは、何度も壁を見上げて、
そのたびに笑ってしまった。
意識してなかったが、
そうやって日に何度も時間を確かめていたことに、
初めて気づかされたのだ。
壁の小さな穴を見るたびに、
こんなに何度も時計を見ていたのだ、と呆れてしまった。


その夜、元の時計を壁に掛けた。
そうしたら、もう壁を見上げることはなくなった。
時間を確かめることができるようになって、
実際には何度も時計のある壁を見上げているのに、
見上げているという感覚が、また消えてしまったのだ。


習慣化された行動というのは、不思議なものだが、
それが意識から消えてしまうというのは、恐ろしいことだ。
日常生活には、そういう行為が無数にあるに違いない。
そのことに、気がつかないまま生きているのだ。


固定観念から脱皮するのが、どれほど困難なことか、
何となく類推できるではないか、
自分の殻を破ると、あらたな世界が開かれる
というのは、本当のことなのだ。


自分の殻を破るような困難に打ち勝てるなら、
そりゃあ、なんにだって打ち勝てるだろう、
そういうことだったのか!




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コメント 2

Lorca

う~ん、なかなか深い話ですねぇ。
どうやって帰ったか、あまり覚えてないけど、
気がついたら家に着いていたりしたときに・・・
習慣化された行動って、怖いなぁ・・・って思う。
by Lorca (2008-08-12 22:27) 

noel

これすごく分かります。
以前、職場で壁に掛けた時計の位置を動かしたことが有ったのです。
そしたら知らず知らずに前の場所を見ていました。慣れるのに少し掛かりました。習慣ってこんなものなのですね。
by noel (2008-08-19 16:40) 

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